ランドスケープの価値を地球市民の共通認識に

半田眞理子

■IFLAとの関わり-大会参加を中心に-

まずIFLAと私の関わりについて、大会参加経験などを中心に記しておきたい。 IFLAという組織の存在を知ったのは1969年のことだった。当時、私は大学で文系の学部(教養学部)を卒業し、農学部に学士入学して造園学を学んでいた。造園学の対象は広い分野に亘っていたが、なかでも私が心惹かれたテーマは、世界の様々な自然観の表象としての庭園・風景であった。海外の情報収集や国際交流のために、そして何よりも国際的な視野からランドスケープアーキテクトの活動を直接、把握するために、私はIFLA会員になった。

時が経ち、90年開催の国際花と緑の博覧会(略称:花の万博)の準備のために、私は日本の政府出展担当者として現地・大阪に赴任した。ここではIFLA会員を含む多くのランドスケープアーキテクトが計画・設計や整備・運営に活躍していた。会場は全体的に花と緑で充たされた華やかな計画になっていて、さらに海外出展として芝生や樹木を活かした起伏のあるイギリス庭園や、噴水を中心としたモロッコの中庭など自然観を反映した様々な形態の庭園がつくられて、見どころに溢れていた。こうした経験を通じて、私はランドスケープアーキテクトの仕事の国際的な広がりと素晴らしさを再認識した。

その後、IFLAの大会に参加する機会を得た。92年に韓国のソウルと慶州で開催された第29回IFLA世界大会のテクニカル・エクスカーションでは、代表的な宮殿庭苑、昌徳宮の秘苑(Piwon)を訪れた。翌93年には第5回IFLA東地区大会(開催地:インドネシア、バリ)で日本の公園緑地計画について発表し(写真1)、さらに棚田の力強い風景や暮らしに溶け込んだ花のあしらいに、大地に根付いた文化の凄さを見た。

写真1 IFLA東地区大会での発表(1993年、バリ) *左から2人目、筆者
写真1 IFLA東地区大会での発表(1993年、バリ) *左から2人目、筆者

95年の第7回IFLA東地区大会で訪れたニュージーランドは、やはりIFLA会員の杉尾邦江さん(プレック研究所)が勉学のために居住していたところである。私は、現地経験者ならではの話をうかがいながらクライストチャーチ中心部や個人の庭、健康食品工場の花修景や緑の美しさに感動し、都市緑化の進め方に思いを馳せた。

96年の第33回IFLA世界大会(開催地:イタリア、フィレンツェ)では歴史的な貴族の別荘につくられた建物と庭園の緊張感ある調和や、水路からの優雅なアクセス、レモンなど果実の使い方が特に印象的であった。 海外で開催されたIFLAの大会に参加したのは以上4回であるが、どれも有意義で示唆に富んだ内容であった。

■テーマの拡大 -地球規模で、緑の機能も考慮してー

 IFLAが掲げるテーマは何か。例えば、先述のフィレンツェ大会のテーマは「地上の楽園(Paradise on Earth)」。「庭園は、地上(この世)につくられた楽園(パラダイス)」とする考え方は極めて古典的かつ伝統的であり、庭園の造成や管理運営にあたっては美しさや修景の観点に重きが置かれていた。数多くのランドスケープ遺産を有するイタリアの歴史都市・フィレンツェでの開催という状況もテーマ設定に影響したものと推察された。 フィレンツェ大会の論文集(2分冊、計1,274ページ)は庭園修復や歴史公園のデザイン、現代公園の設計、広域計画プロジェクトなどの、いわば「従来路線」の範疇での内容が大半を占めていた。しかし、なかには都市の森林(urban forest)に備わった気候調節や生物生息地としての環境保全機能など緑の機能に着目した論文も掲載されており、時代変化の萌しを物語っていた。

 当時(20世紀から21世紀初頭にかけての転換期)の国際社会や国連の動きに目を転じると、特筆するべきは地球規模の環境問題の深刻化である。その対策の一つとして植物によるCO2吸収・固定機能の活用が議論の俎上にあがり、例えば97年の気候変動に関する第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書では、温室効果ガスの削減量の達成においては森林による吸収量も計上できること、さらに追加的活動についても検討することが認められた。これを契機として“地球温暖化防止に資する吸収源(sink)に位置付けられた植生回復(Revegetation)と都市緑地のあり方”が、私の研究テーマに加わった。

 2000年には兵庫県淡路島で第10回イフライースタン地区大会が、淡路花博「ジャパンフローラ2000」の会期に合わせて開催された。この大会のテーマは、地球規模の観点を導入して「地球時代における地域ランドスケープの再生と創造への戦略」と設定された。地域の人と自然について、地球規模のスケール感や問題意識も反映させながら考えるというランドスケープ独特のスタンスが注目される。大会は、IFLA会長アーノルド・シュミット氏(当時)ほか多数の参加者により意見・情報が活発に交わされて盛会であった。

 IFLAは時代の動向に的確に反応しながらテーマの範疇を拡大してきたと言える。

■IFLAおよびIFLA Japanへの期待

これまでに、IFLAは人の歩む道筋に関わる大事な活動を展開してきた。それなのに、蓄積された成果を取りまとめていないことが惜しまれる。せめて創設時から現在までの大会(名称、開催地、テーマなど)や主な活動の概要程度はホームページで一覧できるようにして、しっかりとした歴史ある組織としてのイメージをアピールすべきではないだろうか。

 地球温暖化や異常気象、生物多様性の減少など環境問題への対応、防災や健康づくりなど安全・安心の確保、生活の質の向上が早急に求められる今日では、人と自然のかかわりの本質と方法を文化面だけでなく環境面・経済社会面からも考察し統合化する必要がある。これまでにもランドスケープアーキテクチュアは、この必要性に応え得る体系的な理論と実践を具備した分野であることを示してきた。

 しかし、辛口の言い方になるが、表面的なことは別として、ランドスケープの奥深さや必要性、具体的な内容などは社会全般にそれほど理解されているわけではない。だからこそ今後一層、ランドスケープには高い価値があることが地球市民の共通認識となり、人々の声が高まり、ランドスケープアーキテクト特有の知見と知恵、技術、センスなどの利点が発揮されて、優れたランドスケープ作品に熟成する、といった状況を目指して、IFLAは力を結集しなければならない。とりわけ、「草木国土悉皆成仏」などの言葉に象徴される独自の自然観を育んできた日本を拠点とするIFLA Japanから効果的なかたちで世界に情報発信していくことを期待している。

半田眞理子 Mariko Handa

1971年東京大学農学部卒業。
-2014年2月17日


建設省都市局公園緑地課、国営昭和記念公園調査事務所、経済企画庁国民生活政策課、(財)国際花と緑の博覧会協会などを経て、1997年建設省土木研究所環境部長。その後、(財)都市緑化技術開発機構都市緑化技術研究所長、(財)公園緑地管理財団公園管理運営研究所長に就任。現在、東京農業大学客員教授、IFPRA日本代表コミッショナー。