中国的景観設計

TOA + Northscape Co., Ltd. (諾風景観設計有限公司)
大川善成

■日本-シンガポール-上海

2003年6月より上海で仕事を初めて丸10年を迎えました。大学卒業後、東京ランドスケープ研究所(TLA)に入社、その後、TLAの紹介で2000年にシンガポールの設計事務所へ転職しました。2000年から数えると12年間の海外生活は長くもあり、あっという間だったとも感じます。まだまだ業務経験は浅いのですが、改めて振り返ると日本、シンガポール、中国と3カ国で仕事をするチャンスに恵まれ多様なデザイン経験ができたと思います。

TLA時代は公共事業がメインで少しお堅い設計をやってました。そのような状況から一転、シンガポールの事務所はリゾートを得意とするアメリカ系の会社で、業務はコンドミニアム、5つ星ホテル等のランドスケープに変わり、デザインカルチャーショックを受けたのをよく覚えています。その後、再びTLAの小林治人氏の紹介で中国プロジェクトを担当するため上海に渡り、2005年10月に日本人パートナーと共に独立、上海にて事務所を設立しました。現在15人のメンバーで仕事をしており、6人の日本人が在籍しています。

■中国ランドスケープ事情

華東地区での大規模住宅開発平面図
華東地区での大規模住宅開発平面図

中国ではランドスケープデザインは比較的新しい分野ですが、各種開発には欠かせない存在となっています。ホテル、マンション、住宅団地、商業施設等どのような開発においてもランドスケープアーキテクトは必要とされ、プロジェクトチームの一員になります。特に住宅開発においては団地内の庭園、緑地が大きなセールスポイントとなり、その良し悪しが売れ行きに影響を与える場合もあります。 中国での仕事の醍醐味はその規模にあります。最近、上海などの大都市ではプロジェクトが小粒になってきましたが、郊外や地方都市に行くとまだまだ広大な土地が残っており、敷地面積5haは中規模、10 haを超えると大きいなと感じます。反面、その大陸的スケールのため精緻で繊細な収まりは上手に施工できず設計者として常々もどかしさを感じます。

熱帯リゾート開発のパース
熱帯リゾート開発のパース

また、国土が広大なため気候や風土の全く違うプロジェクトを同時に設計する機会もあります。2011年には北はロシア国境、黒龍江省の街の大規模住宅団地開発、南は赤道付近の海南島のリゾート計画の設計を行いました。片や樹種の限られた荒涼とした北の大地、片や多種多様なトロピカルな植栽。その多様性も中国の面白さの一つです。

■中国バブルは終焉か?

現在、中国では不動産動向が大きく変化しており、飽和状態に達した住宅開発からホテルや商業等の開発へと急速に移行しています。建てれば売れた住宅バブルが一段落し、ディベロッパーも猛烈に淘汰され、経験と資金力のある会社だけが残ってきています。当社でもマンション、ホテル、商業施設、オフィスビル等のプロジェクトを幅広くやっておりますが、住宅開発の減少とディベロッパーの質的向上は強く実感します。また、大陸系、香港系がまだまだ主流ですが、ここ数年は日系ディベロッパーの進出も増えてきています。以前の熱狂はなくとも13億以上の人口を有する中国ではこれからも不動産開発は経済を牽引する一分野として発展していくことと考えられます。

郊外型オフィスのイベント広場
郊外型オフィスのイベント広場
郊外型ショッピングモール噴水広場
郊外型ショッピングモール噴水広場

温泉リゾート露天風呂
温泉リゾート露天風呂
上海の別荘団地の緑地
上海の別荘団地の緑地

■上海の日本人デザイナー

現在、上海には短期滞在者を含めると10万人の日本人がいると言われており、設計の分野でも数多くの建築設計事務所が進出して来ております。中国のスケール、スピード感、熱気に引き寄せられて20代、30代の日本人建築家は年々増えており、上海の若手建築家コニュニティーは活気を呈しています。上海を拠点としている日本人建築家は数百人いるのではないでしょうか。その一方、ランドスケープはというと上海及び華東地区において当社を含めて10人程度かと思われます。 豊富で美しい自然に囲まれた日本とは違い、緑少ない国土に住む中国の人々の環境に対する要求は驚くほど強く、ランドスケープデザインへの期待は想像以上に高いです。当社も若い日本人を採用しておりますが、日本の仕事に満足できない或いは日本の業界で活躍の場を得ることができない20代、30代が上海に飛び込んできました。

華東地区での住宅開発
華東地区での住宅開発
上海の公園改修プロポーザル
上海の公園改修プロポーザル

海外にいて実感することは日本の強い島国性です。国内で文化的にも経済的にも高度に完結されているためガラパゴス化が叫ばれて久しいです。それは家電製品に限らず仕事の仕方、生き方、心構えにも浸透していると思えます。 シンガポールではアジア各国から就職希望のレジュメが送られてきて、新卒生の就職先が最初から海外というのも当たり前の世界です。また、中国も大陸国家でありヨーロッパ全土とほぼ同面積の国土の中、3日間電車に乗って沿岸部に仕事を求めてやって来るという話はよく聞きました。外から眺めると設計者も日本という限られたフィールドの中で様々な束縛に苦しんでいるように思えます。特に若い人は海外へ視野を広げて活動しても良いのではないでしょうか?


■世界との競争と日本への期待

上海市街地の再開発計画国際コンペ案。惜しくも当選なりませんでした。
上海市街地の再開発計画国際コンペ案。惜しくも当選なりませんでした。

こちらでのプロジェクトはコンペティターは中国だけでなく、中国の発展に引き寄せられた世界各国の事務所です。(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、オランダ、ドイツ等)また、中国地場の事務所も急速に経験を積み、どんどんと力をつけてきています。最近は国力を反映してかASLAの年間アワードに毎年中国の事務所がノミネート、受賞しています。これらのライバルとの競争に勝ち抜くためには日々琢磨し、デザイン力をアップデートしていく必要があります。若い人達が海外で得た経験が将来的に日本のランドスケープをよりよい方向へと変える力の源になると期待します。 海外の目には日本のランドスケープに対する評価は格段に高いです。世界に誇る庭園文化を生み出し、現在もその命脈を受け継ぎ高度に洗練された屋外空間を実現しています。ただ、国内にいるとその評価とは相反し、現実との間に大きなギャップがあるように思えます。このままでは日本のランドスケープは世界ではなく、アジアの国々にも負けてしまう気がします。今後ともIFLA Japanには世界に日本を、日本に世界を発信してもらい、国内外のギャップを埋め、境界を破り、日本のランドスケープを鼓舞して欲しいと思います。

大川善成 Tsutamori Okawa

TOA + Northscape Co., Ltd.
(諾風景観設計有限公司)法人代表/執行役員

www.toa-nf.com

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