随想

兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科

/淡路景観園芸学校

林 まゆみ

 

■IFLAとは

IFLAとは、国際的な造園家の集まりである。和訳すると国際造園家連盟となる。世界各国70ヶ国以上の国から、総勢数万人以上の会員で構成されている。例えば、米国は米国造園家協会(ASLA)として加入しているが、この組織は、2万人規模の大きな組織である。毎年、世界大会や、リージョン毎の国際会議(ちなみに日本はアジア・パシフィックリージョン<APR>となる)、また、イコモス(国際記念物遺跡会議:ICOMOS)と連携した世界遺産の認定に関わる活動、国際会議の開催に合わせた学生のコンペティッションやワークショップなど多彩な活動が行われている大きな組織でもある。ここでは、古くからの歴史ある文化的景観から、最新の技術の情報まで様々な発信がなされている。私たちは海外の造園家の活動に触れるとき、何を目的としたらよいだろうか。まずは、海外の情報を取り入れて、いち早く、現在の国内の状況に照らし合わせて、応用できるものを提示していくことは必要だろう。

■造園業界を取り巻く環境

建設業界の長い低迷に合わせるかのように、国内の造園業界も苦戦を強いられている。しかし、これは、どこの先進国も大した変りはないのではないだろうか。一応、インフラストラクチャーも完備し、少子高齢化が進む中、以前のように大量生産、大量消費の時代はもはや終焉を迎えている。ただ、米国などでは、公園のリニューアルなども盛んで、新たな生物多様性をめざした環境づくりや、公園の再整備なども業界を活気づけている要因と言われている。このような側面を日本で応用し、業界を活性化する算段が必要ではないか。

■自然災害とどう向き合うか

2011年には、東日本大震災が発生し、多くの地域が甚大な被害を被った。地震の被害よりも、津波による被害が大きかったことが今回の大きな特徴である。原子力発電所の損傷やメルトダウンといった、予測不能であるとされた被害はいまだなお、続いているし、2013年4月現在も仮設住宅には大勢の避難者が生活している。

海外でも津波の被害の大きかった2004年のインド洋スマトラ沖大津波の様子はいまだに私たちの目に焼き付いている。その後の復興はどのようなものであったか、マレーシアの世界大会では、この津波の復興状況が報告されていた。大きなマウンドや樹林を作って、津波の被害に備えるという柔らかなまちづくりがそこでは報告されていた。

インドネシアでは、高台移転の計画が作成され、多くの住民が移転したはず、であったが、その後、実は平地に戻ってきた住民の多かったことも事実だ。このような報告や情報は現在の復興に取り入れられているのだろうか?造園家の我々はもっとこのような海外の復興のプロセスも取り入れながら発信していかないといけないとも思う。

台湾でも新しくは、大きな水害があった。その記憶も新しいうちに発生した東日本大震災は、台湾でも多くのメディアに取り上げられ、莫大な義援金が台湾各地から寄せられていたのは耳目に新しい。国立台湾大学の都市及び城郭研究所のチャン博士の報告では、台湾では、洪水などが起こって高台移転を行政が進められても、実は住民がそのまま川沿いに住み続ける、というパターンも多いそうだ。彼らの土着の農業や住居に対する考え方は、もっとしたたか、でもあるようだ。

■今後に向けて

いろいろな情報を取り入れながら、日本の暮らしにあったランドスケープのスタイルを提案し、新たな業界の領域を広げていくことは我々造園界の存亡にもつながる必須事項だ。

一方、海外で仕事をする造園家も増え続けている。中国のみならず、インド、フィリピン、マレーシアなどアジア諸国で活躍する人材は増えている。私の所属している兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科は、この3月に3期生が卒業した。淡路景観園芸学校の専門課程の修了生から数えると、13期生目になる。卒業生の中には、中国や、他の東南アジア諸国、また諸外国で活躍している人材も少なくない。今、日本では大学生が韓国や中国の学生たちに比べて、海外へ留学する割合が低いというニュースを聞く。しかし、造園界でそんなことを言っていては、仕事の領域は広がっていかない。若いうちから、海外の情報や人との交流に努めて、いろいろな形で造園の領域を広げたり、深めたりしていくことが求められている。そのためには、まずは語学も大切だし、人と触れ合うことも必要だ。しかし、何よりも求められていることは、あくなき探究心というか、何でも面白がって、興味を持つ、というような好奇心?或いは、楽しむ心!ではないだろうか?

IFLAがぜひ、このようなシチュエーションの中で最大限に活用されていくことを願ってやまない。特に、アジア・パシフィックリージョンは、比較的近い国々と交流できる絶好の場でもある。若い造園家や学生たちが気軽に参加できるような仕組みやチャンスをこれからどんどん増やしていって頂けるとありがたい。

2009年 韓国仁川の国際会議で
2009年 韓国仁川の国際会議で
2010年 中国蘇州の国際会議で
2010年 中国蘇州の国際会議で

2011年 スイス チューリッヒの国際会議で
2011年 スイス チューリッヒの国際会議で

林 まゆみ Hayashi Mayumi

1978年、京都大学農学研究科林学専攻修士卒業。2001年、京都大学において博士(農学)取得。1987年~㈱アルプラン 造園部門主任研究員。1991年~林まゆみ環境研究所主宰。1996年~神戸芸術工科大学 環境デザイン学科 非常勤講師。1999年~兵庫県立大学 自然・環境科学研究所助手、兵庫県立淡路景観園芸学校 主任景観園芸専門員。2003年~兵庫県立大学 自然・環境科学研究所准教授。